母親が私の世界だった【後編】──世界が壊れ始めた日

「母のために生きてきた」
その思いが、私の目を曇らせていたのかもしれない。

尊敬していた。感謝していた。何ひとつ疑わなかった。
けれどある日、私は気づいてしまった。
「この人は毒親であり、私が信じていた家庭は、幻想だったのかもしれない」と。

その日から、私の世界は、急速に反転していったのです。

非常な真実

私は高校生の頃から、アルバイト代の一部を家計の足しとして母に渡していました。

社会人になってからも、それは変わりませんでした。

自分の生活は最低限に抑えて、できるだけ多くを渡していたのです。

その中には、家計だけでなく、ある“特定の目的”のために渡していたお金もありました。

けれどある時、ふとしたきっかけで、衝撃の事実を知ることになります。

私が渡していたそのお金のほとんどが、両親のギャンブル代に消えていたのです。

そして、本来の目的には一切使われておらず、

それどころか、私は自分名義の借金を抱えることになっていました

目次

見て見ぬふりをしてきた過去

私の家庭は貧しく、両親も共働きで忙しく、帰宅はいつも遅かった。

仕事が休みの日でさえ、疲労がたまって寝ているか、家の外で何かしらの用事に追われていた。

それでも私は、

「お金がなくても、親がいない時間が多くても、皆で協力し合ってそれなりに幸せな家族」

──そんなふうに思い込んでいました。

でも今振り返れば、それは私自身の“合理化”によってつくりあげたイメージに過ぎなかったのです。

「おかしい」と感じた違和感に、目を向けないようにしていただけでした。

そうしないと、自分の中の“家族”が壊れてしまう気がして。

愛情と尊敬は、失望に変わった

それから私は、すべてを悟ってしまいました。

「貧乏だから仕方がない」――そう思い込んでいた現実は、

ただお金がギャンブルに消えていただけだった。

食べるものがなくて我慢した日々も、

欲しい物を諦め続けたことも、

家計を支えるためにと節約を徹底していたことも――

すべてが、意味のない犠牲だったと知りました。

両親が家にいなかったのも、仕事や用事のためだと思っていた。

けれど本当は、仕事が終わったあとも休日も、毎日のように二人で遊びに出かけていたのです。

そして後に、これはネグレクトだったのだと理解しました。

それまで母に抱いていた感謝や尊敬の念は、

気づいた瞬間に、そのまま裏返しのように怒りや絶望に変わっていきました。

そこから私は、関わりを断つ努力を始めた

社会人になってから一人暮らしを始め、私は少しずつ母との距離を取るようになりました。

会いに行く回数を減らし、連絡の頻度も控えるようにしていきました。

話すことがあっても、必要最低限の会話だけで済ませ、態度もどこか冷たくなっていったと思います。

それでも——

幼い頃、母が必死になって私を育て、命をつないでくれたことは紛れもない事実です。

あのときの愛情が嘘だったとは思いませんし、私の命にとって本当に必要な存在だったのも確かです。

だからこそ、私は完全には母を見放すことができませんでした。

心のどこかで「でも、あの人はあのとき本気で私を助けてくれた」と思ってしまう。

その思いが、私を何度も立ち止まらせ、突き放すことに罪悪感を抱かせたのです。

結果として、つかず離れずのまま、曖昧で不安定な関係が、ずっと続いていくことになりました。

現在の心境と母との関係

あれから月日が経った今も、時折、母と連絡を取ったり、顔を合わせることがあります。

これまでの経験を通して、私の中では「何を優先すべきか」や、「母親をどう捉えるか」という落としどころが見えてきました。

今では、自分を守りながら関わるための“距離感”を保つことで、バランスを取っています。


たどり着いた答え

母は歳を重ね、いまは独り身です。

寂しさからか、時折、私にすがるような連絡をしてくることもあります。

けれど、私はもう「自分の人生を最優先する」と決めたので、すべて応えることはしません。

それでも、年老いて弱っていく母の姿を見ると、どこか憐れみや同情のような気持ちが湧いてくるのも事実です。

完全に切り捨てることはせず、年に数回ほど、連絡を取る程度の関係を続けています。

母親の正体を知り、距離を置くようになってからも、

何度も振り回され、怒りや違和感に苛まれました。

けれどある時から、

「この人は正常に物事を考えられない、かわいそうな人なんだ」

そう思うようになったのです。

命の恩人であること。

尊敬の念があったこと。

同時に、憎しみや嫌悪が湧いたこと。

それらは矛盾しているようで、

今は、共存していてもいい感情だと思えます。

距離は取っているけれど、完全には切らず、

私なりの“答え”として、この関係を保っています。

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